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最高裁判所第三小法廷 昭和37年(オ)1259号 判決 1963年10月01日

京都府相楽郡木津町大字相楽小字大里

上告人

中岡寅治

右訴訟代理人弁護士

田辺照雄

京都府綴喜郡田辺町

被上告人

山城田辺税務署長

荒井広

右当事者間の所得税更正決定処分取消請求事件について、大阪高等裁判所が昭和三七年七月一三日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告申立があつた。よつて当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人弁護士田辺照雄の上告理由及び上告人の上告理由は別紙のとおりである。

上告代理人の上告理由一及び二の(イ)及び上告人の上告理由第七点は、いずれも、被上告人が上告人の所得金額算出に際し採用した所得標準率を原判決が是認するについて、審理不尽または経験則違背の違法があるというのである。しかし、原判決が引用する一審判決は、右標準率の作成方法について詳細に認定し、農業所得を推計する手段としては必ずしも相当でないとすることはできない旨を判示しており、その判旨は、当審においても十分に首肯することができる。原判決に所論のような違法はない。

上告代理人及び上告人のその他の論旨は、麦の作面積、薄莚の製造販売枚数及びその価格、畑の耕作面積、さらに薄莚販売による収入の帰属について、原判決の認定が経験則に違反する等主張するのであるが、要するに、原審の専権に属する証拠の取捨選択、事実認定を非難するに過ぎない。上告人の上告理由中違憲の主張及び民法違反の主張は、その前提において理由がない。また、上告人の上告理由第六点主張の事実は原判決の認定していない事実である。論旨はすべて理由がない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 横田正俊 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己 裁判官 石坂修一 裁判官 五鬼上堅磐)

○昭和三七年(オ)第一二五九号

上告人 中岡寅治

被上告人 山城田辺税務署長

上告代理人田辺照雄の上告理由

右当事者間の大阪高等裁判所昭和三五年(ネ)第四四八号所得税更正決定処分取消事件の判決に対する上告理由は左記の通り。

一、原判決は審理不尽の違法がある。

原判決は上告人の昭和三〇年度所得の認定にあたり所謂所得標準率なるものを基準にしている。しかし本件審理の全過程を通じて、上告人の指摘にも不拘(原審における上告人の昭和三五年九月二日付準備書面第二項)右所得標準率が如何なる方法で決定せられたものであるかが遂に審理されなかった。従って右所得標準率なるものがはたして上告人の所得算定の基準として妥当なものであるか否かの判断を下す資料もないのに漫然右標準率を基準にして上告人の所得を認定したのは審理不尽の違法がある。

二、原判決は経験法則に違背して事実を認定した違法がある。

(イ) 右一でのべた如くその適正であることについて何等の審理もされていない標準率なるもので上告人の所得を認定したことは結局事実認定の法則に違反する。

(ロ) 原判決は乙第一号証、同十号証、証人水島佐一、同小林政治、同三浦清治、同丹羽康雄の各証言より昭和三〇年度上告人の裏作麦作付面積を四反七畝一五歩と認定しているが、これは右認定に反する上告人の主張であるところの同作付面積が三反三畝であることを証明する証拠を恣意に排斥してなしたもので全く自由心証主義に名をかりた違法な事実認定である。即ち乙第一号証は上告人の供述より明かな如くかかる書面作成能力の低い上告人が裏作表作付欄にれんげ草栽培を記載してしまったものであり、乙第一〇号証人丹羽康雄の証言は伝聞で証拠力弱く、三浦清治の証言内容は右作付面積認定に関して全く無関係といつていい程のものであるし、小林政治、水島佐一の証言も自信のないふたしかなものである。之に反し、上告人の主張を裏付ける上告人本人、土福、藤田の各証言は極めて信ぴよう力が強く、かかる証拠を前記の弱い証拠で排斥することは正常人としての判断力洞察力を具えていれば決してする筈のないことである。

(ハ) 原判決は上告人方での昭和三〇年度薄莚の製造収入は上告人の所得となっていたと認定しているが、右認定の資料としてあげられた乙第一号証、上告本人の供述、中岡茂之、中岡志め、中岡きよ子、吉村政野の各証言からは右の認定は導かれる筈はない。右の証拠からは薄莚の製造収入は中岡志め、中岡清子の両名に帰属したと認める外はない。

(ニ) 原判決は乙第九号証、久保田正男、西沢繁太郎、中岡志め、中岡きよ子、吉村政野の各証言、上告人本人の供述、乙第一三号証、同第一、一二号証から昭和三〇年度の上告人方における薄莚の製造枚数を千八百枚と認定しているが、右等証拠からはかかる認定をすることは不可能である。推察するに原審は乙第九号証を重視せられたものの如くであるが右証拠は昭和三二年度の九月一四日から一〇月一四日までの製造枚数を証明するにすぎず、昭和三〇年度は使用された薄莚織機が右三二年度と異つた旧式のものであるし、薄莚の製造は家内で内職として行なわれる関係もあり、時期によつてその増減が著しく、一時期の枚数から他の時期の製造数を推定することは不可能である。

(ホ) 原判決は右(ニ)に挙げた証拠から薄莚の代金(販売価額)を六・五尺もの一枚平均二五円、六尺もの一枚平均二二円と認定されたがこれは経験則に反している。右の証拠からは六・五尺ものを二六円乃至二四円、六尺ものを二三円乃至二一円で売つたということしか認定できない、そうして六・五尺ものについても六尺ものについても右値巾のうちで何枚がいくらにうれたという証拠は全くないのであるから、この点についての立証責任が被上告人にある以上、原審の認定としては、六・五尺ものの販売価額は一枚二四円以上、六尺もののそれは一枚二一円以上という認定しか許されない筈である。従つてこの点に関する原判決の認定は経験法則に反すると共に、立証責任を定めた法規に違反する。

以上の次第で原判決は破棄されるべきものと確信する。 以上

○昭和三七年(オ)第一二五九号

上告人 中岡寅治

被上告人 山城田辺税務署長

上告人の上告理由

第一点 上告人、中岡好子、中岡武司の生計と別個に中岡茂之、中岡す、中岡め、中岡清子の生計が存在するにも拘らずこれを否定し同一生計と判決した、そしてその判決理由として右各人は同一地番同一屋敷内に起居し有無相通じたからと認定して別生計を否定したがこれは明らかに憲法第二十二条の居住の自由を否定するものである、尚またすべて国民は最低限度の生活を自由に営む権利即ち自由に別個に生計を営み得るに拘らずその生計を認めていない判決は憲法第二十五条を否定することとなり憲法違反は明白である。

第二点 薄莚の製造者は中岡清子及中岡好子であり薄莚の代金は原料である藁代金を著しく超過することになるから民法第二百四十六条第一項但書により製造者自身の所有に帰し従つてその売却代金も各製造者の収入であるにも拘らず莚を上告人の所有とし売却代金を上告人の所得としたことは右民法の規定に違反する。

第三点 麦の耕作面積につき上告人の本件問題の姫子井手上口の隣接耕作者である証人土福茂一、同藤田あさゑの証言を斥け(以上上告人申請)被上告人申請の本件問題の地番の隔地耕作者である証人水島佐一の証言を採用し(証人小林政治の証言は上告人、被上告人に対し利害中立)たことは経験則違反である。

第四点 薄莚の製造枚数につき昭和三二年分の資料(而かも極一部)を以て昭和三〇年分の枚数を推測し且又昭和三〇年当時の機械では七尺ものを製造し得ないにも拘らず被上告人の主張を認容して判決したことは裁判立証主義違反である。

第五点 畑の耕作面積につき上告人は畑の周囲が雑草及樹木の根淵等により耕作不能の為二畝歩のみを耕作したにも拘らず三畝一二歩と認定して判決したことは上告人の耕作の自由を否定することとなり自由権の侵害であり憲法違反である。

第六点 所得税は申告納税である即ち申告者が正確に真の所得額を算出申告し納税するものであるにも拘らず予め税務署に於て各人の所得金額なるものを配分算定(先ず税務署管内各町村に割当て且個人に配分する)通知しその通知額を以て申告納税しない場合は必ず更正決定を行い納税を強制することを認めて判決したことは所得税法第二十六条違反である。

第七点 所得標準率を以て各種目の所得金額を決定しているが該標準率の基礎資料の提出も要求せず全面的にその率を認容しているが斯かる軽卒なことは裁判の方式としては未だ曾てない即ち経験法則違背である。

第八点 農業経営明細票記入内容について明らかな誤記である(脱落)れんげ草はその票を楯に取り被上告人の利益に解し藁工品(薄莚)の点はその票に記入の内容を採用せず斯かることは裁判の経験法則違反である。 以上

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